今日の6限目の体育は、男子は運動場でサッカーだった。サッカーは別に嫌じゃないけど、この時期に運動場は
勘弁して欲しいと思う。まぁ部活で野球やってる俺が言うのもなんだけど。暑いもんは暑いからしょうがない。
教室には一応クーラーが効いているけど、困った事に俺の席は一番後ろだからその冷風は真上を通り過ぎてしまうのだ。
お陰で俺はその恩恵を受けることが出来なかったりする。夏限定なこの席の不利点に気付いてしまってちょっと愕然とした。


SHはもう終わったからとっとと部活に行くべきなんだろうけど、折角だからもう少し涼んでから行こうと思う。机の中から
下敷きを出してばたばたと扇ぐ。マジ暑い。


「花井暑そうだねー」
「おー、

ふわふわとした笑みと共に近寄ってきたのはクラスメイトのだった。入学当初席が近くてよく話していた女子。
サバサバしてる癖に妙に気の抜けた態度であるせいか、妙に馬が合って席替えして席が離れた今でも比較的よく話す。
彼女の髪は濡れているから女子はプールだったんだろう。羨ましい。

「体育、男子はサッカーだったっけ?」
「このクソ暑い中な。マジあっつい」
「あはは、ご愁傷サマ」

笑いながらは大判のタオルで髪を拭いている。長い黒髪から滴る雫に意味もなくどきりとした。
濡れた髪って何かそそられるものがあると思う…って何考えてんだ俺。
そんなことをぐるぐると考えていると、目の前のの顔をまともに見れなくなってきて視線を逸らしてみる。
本当何やってんだろう俺。

「花井ってさ、坊主だから頭楽そうでいいよね」
「…それ嫌味かよ」
「違いますー!だってプールとか入ってもすぐ乾きそうじゃんか」
「あー、女子は大変そうだよな」
「あたしとか毎日髪乾かすの20分はかかるもん」
「そんだけ長けりゃな…」

濡れた髪を見て少しやましいことを考えていた矢先に髪の話を振られて内心びっくりした。
( やましい云々に関しては俺も健全な男子高校生なのでそこらへんは勘弁して欲しい。 )
と言うか女子ってよくやるな、と思う。20分ドライヤーと格闘するなんて俺には一生無理だろう。まぁ、
一生そんなことをする必要も無いだろうけど。

「それにいいじゃん坊主頭って。野球部って感じで」
「褒めてんのか?それ……あ、、頭に糸クズ」
「え、どこ?ここ?」
「あー、そこじゃない」

じゃあここ?とは手探りで頭を触っていたが、どうにも場所が見当違いだった。
見ているとどうにももどかしくなって思わず手を伸ばす。


水分を含んだの髪は思っていたよりもずっと柔らかった。


「ほら」
「わ、ありがとー」

ほとんど反射的に伸ばしてしまった手が、びっくりして少しだけ跳ねてしまったのには気付かないふりをした。
不用意に女子に触れてしまった事に若干居心地の悪さを感じたけれど、目の前のの表情は飄々とした
ものだったから、あえてこのことには触れずに流しておくことにする。

「あーあ、プールって涼しくていいけど焼けるからやだな」
「お前それで焼けると言うなよ…俺はどうなんだ」
「花井は部活やってるじゃんかー。あたし帰宅部だもん」

そういえば花井、部活の時間平気?というの言葉にはっとなって時計を見る。そろそろ危ないかもしれない。
それに名残惜しいものを感じてしまった自分にも、やっぱり気付かないふりをする。


「あーやばい。俺そろそろ行くな」
「部活頑張ってねー」

急いでスポーツバックを持って立ち上がる。万一部活に遅れたらモモカンに何言われるか分からない。
と言うか、何されるか分からない。
ドアの所で振り返ると、は白い手をやる気なさげにひらひらと振っていた。
返事代わりに軽く手を上げてドアを閉める。







初夏の水際
               The water's edge of the early summer,








窓の外にはぎらぎらと輝く太陽。部活日和、ってやつだろう。
左手のあの柔らかい髪の感触が頭から離れなくて俺をそわそわとさせる。どうしようもない。

それから。
去り際に手を振っていたの顔が少しだけ赤かったのは俺の自惚れ、だろうか。







( これはひょっとするともしかして? )